みかん山にのぼって行く途中に、三角畑っていうハーブの畑がある。畑の形が三角形で、きれいな青いアジサイも咲く
今日は、この畑の横の道を通って図書室に行こう、と思いついた。遠まわりになるけど、傘をさして歩いて行く
雨が続いて、畑はちょっと退屈そうだ
カミツレの花
大きく伸びる月桂樹
ローズマリーの細い深緑の葉
ラベンダーの紫色のつぼみ
太陽や青い空は、雨雲の上に広がる
ことりちゃんは、三角畑の奥で生まれた
小さすぎて覚えてるはずないって思うんだけど、思いだすんだ
ほんとは、思いだすのともちがうかな、見たいなって思うと、いつも同じように見えはじめるの
光が顔にあたると気持ちよくて、目をつぶっててもいろいろ見えるときがあるでしょう? それが繰り返す
父さんと母さんと、おじさんといとこたちが、三角畑で何か探しているの、それでみんなでおしゃべりしてる
わたしは眠っていて、みんなの話す声が聞こえてるの
すごく眠くて目なんて全然あけられないんだけど、そのときの様子を覚えてる。どうやって見たのかなあ? 畑のにおいも覚えてる、それはあとで、タイムのにおいだってわかった
三角畑を過ぎるころ雨があがった。傘をつぼめて上を向いて歩く
赤ちゃんのことりちゃんの事をなんとなく考える
ぼくは、高く飛べることりちゃんしか知らないけど、想像してみる
春の日、生まれて少ししたことりちゃんを連れて、お父さんとお母さんは三角畑にやってきた
畑の土は黒くてあたたかだ。森の中みたいないいにおいもする。土にふれる両足からそれが伝わる
お父さんとお母さんは、眠っていることりちゃんを、畑の月桂樹の下にそっと置いた。ことりちゃんは柔らかな羽毛をしいたカゴの中でよく眠っている
ときどき吹く風が、葉の影を動かす
お父さんとお母さんは、畑の手入れを始めた。2人は畑に、バジルの種をまこうと考えていた
種まき前には雑草を抜いたり石をどけたりしなくちゃって、2人が忙しく飛びまわっていると、近所に住んでるおじさんといとこたちが手伝いに来た。あとからおばさんも来た
水やりどうしましょうね、種をまくときはたくさん水がいりますねって相談した
畑には春がやってきたばかりだけど、実は一緒に夏もきていた
手入れをされた三角畑と、三角畑の草や木はそれがわかって、大きくなりたい気持ちでまんまるになった。風船みたいにどんどんふくらんでいったんだ
ことりちゃんはぐっすり眠っていて、お父さんの事もお母さんの事も、おじさんもいとこたちも見えてはいない。でも、畑の草木の夢のおかげで、赤ちゃんのことりちゃんの心も一緒に大きくふくらんで、みんなの事が見えたんだ
カゴの近くには、いいにおいのタイムがまるい葉っぱをならべていたに違いない
小さなかわいいことりちゃんが眠る
すてきな声で歌ったり高く飛んだりするのは、もうちょっと大きくなってから
できるようになるまでたくさん時間がかかることもあるけど、こうなりたいって思ったらきっとそうなる。心配はいらないね、大丈夫だと思う